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1.強がり

 

さっきから、もう10分ほど前から、カイトくんは戻ってこない。

テレビの画面ではやたらとイケメンの海賊がニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま静止している

なんとなく、膝をかかえじっと息を凝らしているメイコさんの耳には台所の安っぽい換気扇のパタパタという耳障りな音と、

薄い引き戸の向こうから時折漏れ聞こえてくる楽しげな笑い声しか聞こえない。

「・・・・・カイトが観たいって言ったくせに」

日曜日、二人してたっぷりと朝寝坊をして寝癖のままのんびりと気ままな午後を過ごしている所だったのに。

「はぁ〜あ」

たっぷりとため息をつきながらベットの足元に落ちてたジーンズに手を伸ばす。

 

KAIMEI_01.JPG - 88,326BYTES

 

 

 

「あれ?出掛けるの?」

しっかりと身支度を終えたメイコさんの姿を見て、カイトくんは無神経にもそうのたまってくれた。

「出掛けるんじゃなくて、帰るの」

寝癖を直し、しっかりとメイクを終えるまでカイトくんは結局メイコさんをほったらかしにしていた訳である。

努めて冷静に、決して腹を立てている訳じゃないですよ、という大人な態度を意識する。

「まだDVD途中でしょ?」

____気にするのはそこなのっ!? 

思わずメイコさんが叫びそうになったとて仕方がない。

高校受験の時に面倒を見ていた生徒が、今度カイトくんと同じ大学を受験するらしい

長電話の理由をそう説明してくれたけど、電話相手は女の子だったし(しかも女子高生!)

なんだかすごく楽しそうに話してたし・・・。

____普通、彼女が・・・・・客が来てるとか言ってさっさと切り上げるものよね?

誰にでも愛想が良いのも考えものだ。ましてや相手が恋心を抱いているのなら尚更

カイトくんと付き合い出して、メイコさんはこの手の気苦労が絶えない

ため息も出ようというものだ。

「なんかあんまり面白くなかった。甘いもの食べたくなったし」

ものすごく脈絡のない返事に聞こえたかもしれないけど構わない

ケーキを買って帰るのだ。給料日くらいにしか買わない、あの駅前のケーキ屋さんのザッハトルテを。

勿論、メイコさん一人で食べるつもりだった。

「じゃ、こっち観る?」

カイトくんがレンタルショップの袋の中から取り出して見せたのはメイコさんの大好きな映画で

(中世ヨーロッパの身分違いの恋を描いたもので、かれこれ10回以上は観ている)

「・・・・・もう、観たくないって言ってたじゃない。飽きたって」

だからメイコさん一人で観るつもりだったのだ。思う存分涙を流しながら。多少、彼への恨みも込めた涙を。

「甘いものなら、駅前のあのケーキ屋さんに二人で行かない?メイコさんあそこのザッハトルテ好きでしょ?」

シャツを羽織ながら、カイトくんは何気ない風にそうメイコさんに言うのだ。

「・・・・・カイト、甘いものはアイスしか食べないじゃん」

だからいつもカイトくんの分までメイコさんが食べる羽目になるのに。(それは女性にとって由々しき事態であるのに)

寝癖を直すカイトくんと鏡越しに目が合う。

「たまには良いんだよ」

ほら。そうやって何気ない風にいつも笑うのだから。

こんな風にご機嫌取るなんて馬鹿にしてるな、とも思うけど

結局、こうやってやさしく微笑まれると許すしかないではないか。

「いつもケーキ食べた後に、胸焼けがする〜とか言う癖に強がり言っちゃって」

 

 

「・・・・・強がり?どっちが」

 

ほら、またそうやって笑う。

 

 

 

END

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兄さんはアイスが好き・・・・・はデフォで(笑)、ケーキが苦手ってのは妄想の産物

正直、彼女を待たせて長電話っていうのも考えモノなのですが、元教え子ってのはミクってことで。

ザッハトルテを噴出しそうなくらいのバカップル振りにはあえて言及は致しません。

そういう趣旨のサイトですもの・・・・・。

 

 

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